夏の終わり……。
OO駅頭……。
雑踏の中、蝉の鳴き声が響いている……。
駅前のベンチの端に、所在なげに腰かけている、
どこか垢抜け無い制服を着ている長い髪の少女……。
三葉……。
痛みかけの学生靴の足元に転がっている、乾いた蝉の抜け殻に
眼を落としている……。
その美しく整った後ろ髪には、赤と白の絹糸で編み込まれた組み紐を
輪郭とした蝶が、閑かに羽根を休めていた。
時折、フッと頭を上げ、改札の方を見詰めるが、
再び、うな垂れてしまう……。
数分ごとに発着する電車から、乗客が押し出された行く……。
駅員のアナウンスと車体の軋む音に、少年の、ハァハァという
息遣いが、かぶさる……。
そして、少年のタッタッという、駆ける足音が加わってゆく……。
ブランドのスニーカー、どこか垢抜けたネクタイ姿の制服が、
駅の階段を一気に駆け上がる……。
そのまま改札を抜けようとして、間一髪、中年の男性客と
ぶつかりそうになる……。
「ア……ッ、スイマセン……。
男はチラッと顔をしかめるが、そのまま過ぎ去る……。
少年は、改札を出ると両手を膝に当て、前屈みで息を整えている……。
「イヤーッ、結構キツーッ……!」
同時に、首を左右に回して、誰かを眼で追っていた……。
そして、駅前のベンチの端で、うつむいている少女を見つけると、
少年の表情がパッと明るくなった。
同時に、手を思い切って振りながら、少女に呼びかけた……。
「三葉さーん!! コッチコッチ……!!」
少年は、そのまま小走りで、ベンチの少女の前に立ち、
学生カバンを開けて、何やら取り出そうとした……。
「イヤーッ、間に合わないかと、冷や冷やでしたョ。
エーッと、コレコレッ……!」
少年が取り出したのは、安物の合皮のケースに入れられた
学生証であった。
三葉は、それを手に取り、ジッと見詰めていた……。
美しく整った眉の間に、深い皺が浮かんでいる……。
「ネッ! アッ、それと肝心な、コレッ……!!」
少年は、再び鞄に手を入れ、何かを掴むと、学生証と引き換えに
三葉の手に握らせた……。
単色の紅い絹糸で編み込まれた組み紐が、そこに有った……。
「コレで、約束、守りましたからネッ! アッ、それからノートの日記帳、
チャンと机の上に置いて預かってマスョ。勿論、絶対に読んでマセンから。
アーッ、本当、助かったァー……。」
少年は、ココまで言うと、三葉の表情が一気に雲っている事に気付いた。
三葉の唇の両端は、微かに震えている……。
「 (……エエッ……?) 」
何と言葉を掛けたら良いのか……少年は戸惑うばかりだった。
次の瞬間、三葉は決心したように、少年の手首を左手でギュッと
掴むと同時に、紅い組み紐をその腕に叩き付けた。
反動で組み紐は、少年の腕をクルリと回る。
三葉は、一瞬のスキを捉え、それを結び付けていた……。
少年の腕に、美しい紅い蝶が羽を休めていた……。
「アッ……」 少年は、小さな声をあげた。
しかし、三葉は、もう何も言えない……。
唇の震えは、三葉の肩から腕に広がっていた……。
言葉を紡げば泣き崩れそうになるのを、必死で
こらえていたのだ……。
それでも、勇気を絞って、震える口を開いた……。
「……滝……君……。」
「……滝…君……、私の事……忘れな……」
三葉の声は、余りにか細く、駅前の雑踏の音の中で、
かき消されて行く……。
「……エッ?何ッ?……三葉さん……本当にどうしたンデ……」
少年、いや、滝がココまで尋ねた時、三葉の眼から溢れ落ちた涙が、
紅い蝶の羽根を透かして、滝の腕を叩いた。
その途端、滝はハッとなる……。
三葉が泣いた事に驚いた…のでは無い。
その時、滝は、三葉の心の景色がハッキリと見えたのだ……。
絶望と恐怖の嵐の只中で三葉は泣き叫んでいた……。
そして、三葉の音に成らない叫び声が、滝にはハッキリと聞こえた……。
「……滝……君……!!、滝…君……!!、……私の事……、忘れないで……!!!」
三葉の心が、強く弾かれ震えた時、滝の心も強く震える……。
何故、こんな事が……?
滝には訳が判らない……。
しかし、そんな迷いを一蹴する、信じ難い1つの確信が、
滝の心の底から一気に沸き上がり、言葉と成って、
滝の口から漏れ溢れた……。
「……三葉さん、……君は…誰だッ……?!!」
…
……これより映画タイトル……
…
デヘッ、与太郎ッス。プロローグ、終わりでヤンス。