「君の名は。」ヨタマ作戦part0プロローグ+エピローグ


夏の終わり……。

OO駅頭……。

雑踏の中、蝉の鳴き声が響いている……。

駅前のベンチの端に、所在なげに腰かけている、

どこか垢抜け無い制服を着ている長い髪の少女……。

三葉……。

痛みかけの学生靴の足元に転がっている、乾いた蝉の抜け殻に

眼を落としている……。

その美しく整った後ろ髪には、赤と白の絹糸で編み込まれた組み紐を

輪郭とした蝶が、閑かに羽根を休めていた。

時折、フッと頭を上げ、改札の方を見詰めるが、

再び、うな垂れてしまう……。

数分ごとに発着する電車から、乗客が押し出された行く……。

駅員のアナウンスと車体の軋む音に、少年の、ハァハァという

息遣いが、かぶさる……。

そして、少年のタッタッという、駆ける足音が加わってゆく……。

ブランドのスニーカー、どこか垢抜けたネクタイ姿の制服が、

駅の階段を一気に駆け上がる……。

そのまま改札を抜けようとして、間一髪、中年の男性客と

ぶつかりそうになる……。

「ア……ッ、スイマセン……。

男はチラッと顔をしかめるが、そのまま過ぎ去る……。

少年は、改札を出ると両手を膝に当て、前屈みで息を整えている……。

「イヤーッ、結構キツーッ……!」

同時に、首を左右に回して、誰かを眼で追っていた……。

そして、駅前のベンチの端で、うつむいている少女を見つけると、

少年の表情がパッと明るくなった。

同時に、手を思い切って振りながら、少女に呼びかけた……。

「三葉さーん!! コッチコッチ……!!」

少年は、そのまま小走りで、ベンチの少女の前に立ち、

学生カバンを開けて、何やら取り出そうとした……。

「イヤーッ、間に合わないかと、冷や冷やでしたョ。

エーッと、コレコレッ……!」

少年が取り出したのは、安物の合皮のケースに入れられた

学生証であった。

三葉は、それを手に取り、ジッと見詰めていた……。

美しく整った眉の間に、深い皺が浮かんでいる……。

「ネッ! アッ、それと肝心な、コレッ……!!」

少年は、再び鞄に手を入れ、何かを掴むと、学生証と引き換えに

三葉の手に握らせた……。

単色の紅い絹糸で編み込まれた組み紐が、そこに有った……。

「コレで、約束、守りましたからネッ! アッ、それからノートの日記帳、

チャンと机の上に置いて預かってマスョ。勿論、絶対に読んでマセンから。

アーッ、本当、助かったァー……。」

少年は、ココまで言うと、三葉の表情が一気に雲っている事に気付いた。

三葉の唇の両端は、微かに震えている……。

「 (……エエッ……?) 」

何と言葉を掛けたら良いのか……少年は戸惑うばかりだった。

次の瞬間、三葉は決心したように、少年の手首を左手でギュッと

掴むと同時に、紅い組み紐をその腕に叩き付けた。

反動で組み紐は、少年の腕をクルリと回る。

三葉は、一瞬のスキを捉え、それを結び付けていた……。

少年の腕に、美しい紅い蝶が羽を休めていた……。

「アッ……」 少年は、小さな声をあげた。

しかし、三葉は、もう何も言えない……。

唇の震えは、三葉の肩から腕に広がっていた……。

言葉を紡げば泣き崩れそうになるのを、必死で

こらえていたのだ……。

それでも、勇気を絞って、震える口を開いた……。

「……滝……君……。」

「……滝…君……、私の事……忘れな……」

三葉の声は、余りにか細く、駅前の雑踏の音の中で、

かき消されて行く……。

「……エッ?何ッ?……三葉さん……本当にどうしたンデ……」

少年、いや、滝がココまで尋ねた時、三葉の眼から溢れ落ちた涙が、

紅い蝶の羽根を透かして、滝の腕を叩いた。

その途端、滝はハッとなる……。

三葉が泣いた事に驚いた…のでは無い。

その時、滝は、三葉の心の景色がハッキリと見えたのだ……。

絶望と恐怖の嵐の只中で三葉は泣き叫んでいた……。

そして、三葉の音に成らない叫び声が、滝にはハッキリと聞こえた……。

「……滝……君……!!、滝…君……!!、……私の事……、忘れないで……!!!」

三葉の心が、強く弾かれ震えた時、滝の心も強く震える……。

何故、こんな事が……?

滝には訳が判らない……。

しかし、そんな迷いを一蹴する、信じ難い1つの確信が、

滝の心の底から一気に沸き上がり、言葉と成って、

滝の口から漏れ溢れた……。

「……三葉さん、……君は…誰だッ……?!!」



……これより映画タイトル……



     デヘッ、与太郎ッス。プロローグ、終わりでヤンス。
     続いて、エピローグに飛びヤス。

     アタイ、ズイブン前に、ブログの旦那に

     「ヨタマ作戦」、出来具合はドウですか?って聞いタンスけど、

     「オーッ、任しとけっ!」って言ってヤシタが、

     ヤッパ、任せナキャ良かった……、反省ッス。

     皆様には、大変なご心配とご迷惑を……

               エッ?早く引っ込め?

     どうもスイヤセン……。

     エピローグ、始まりヤス。

……

….


彗星落下から5年……。

晩夏

水宮神社

油蝉からヒグラシの鳴き声に変わってゆく……黄昏時…..。

境内を、静かに箒で掃き清めて居る、白い衣と緋色の袴の巫女…..。

後ろ髪を、緋色の組み紐で蝶の形に結んでいる……。

三葉……。

竹箒が、石畳を払うサラサラという閑かな音の拡がりの向こう、

微かなハァハァという息遣いと、長い石段を急いで登って来る、

確かな足音が近付いて来る……。

石段を登りきり、両手を膝に付け、しばし息を整えている青年。

「イャー、結構キツゥー……!」

青年は顔を上げると、視界に入った三葉の向こうから、声をかける。

肩に下げた大型のバックから、カメラとスケッチブックが顔を

出していた。

「すいません、お社の写真、撮らさして戴けますか?それと、

スケッチ宜しいですか……?」

三葉は黙ったまま、閑かに頷いた。

「ありがとうございます。」

青年は軽く頭を下げ、足早に三葉の傍らを通り過ぎ社殿に

向かおうとした。

そして、三葉が払った箒の視線の先に、青年が肩に下げたバックの

持ち手を右手で持ち直す様が映った。

その刹那、青年の手首に巻かれていた、年代物の赤黒い何物かが、

遂に切れて、落ちかけている事に気づいた。

「アッ、何か落ちま………」

三葉の言葉はココで途絶えた。

何故なら、三葉の眼前には、信じられない光景が広がっているからだ。

地に落ちるハズの物が、スローモーションの様に、宙に漂い始めている。

そして、その動きは更に遅くなってゆく……。

遂に、地に着く前に、ソレは停止した。

次の瞬間、三葉は閑かな衝撃の中に居た。

時間が、止まった?いや、違う!

時間は、確実に、今も流れている。

三葉の、時間に応じる感覚が、一気に、研ぎ澄まされた……。

紐は、三葉の指先、数10cmの空中に浮かんで静止していた。

勿論、三葉の指の動きも視界も、完全に固定していた。

しかし、三葉の意識は、限界を軽々と超え、研ぎ澄まされてゆく……。

そして、三葉は見た……。

光を、いや、光の生まれる瞬間を………。

黄昏の茜色の中、紐の切れた端の繊維の断片の一点が、微かに輝くと

極めて小さな光の粒が現れた……。

すると、四方に極限の細さの光の筋糸を放ちながら、三葉に向かって来る……。

この僅かな間にも、堰を切った様に、次々と様々な色をまとった光の点が

現れては、たちまち光の筋糸を放ち始める……。

その光景の全てが、スローモーションの様に、三葉の眼にハッキリと映った。

種々な色の光線の束は、交差し、重なり合い、混じり合って行く……。

そして、衝突をした光は、一瞬で色を変え、更に繊細な光の綿毛となり、

様々な形を造りながら、閑かに世界に拡がって行く……。

そうした光の粒と筋が三葉に達すると、

ある物は、何も無かったかの様に、三葉の躰を通り抜け、

ある物は、三葉の躰の表面でハネ返り向きを変え、あるいは光の綿毛と成り

周囲に拡がって行った……。

そして、三葉の躰と心を組み立てている全ての要素の、最後の一つが

そうした光の粒と束に出逢った、その瞬間、

プラチナの光のフラッシュが

三葉の全てを包み、貫いた……。

三葉は茫然とするしか、無かった………。

しかし、全ては、「一瞬」が「永遠」に引き延ばされた間に生じた「瞬時」

の出来事であった………。

そして次の瞬間、

三葉の「時間」は、2つの意味で、戻っていた……..。

青年が、三葉の「アッ、何か落ちま……」の声に踵を返し三葉の傍らに

戻って来た。

「イャー、とうとう切れチャイましたか…..。何か良い事でも起き……」

こう言いながら、青年が手を伸ばして、地面に落ちているミサンガを

拾おうとした、その瞬間、

三葉は突然、青年の手首を上から両の手でギュッと掴んだ。

「どッ、ドウしたんですか……?」

三葉は腰を半ば折り、青年の眼を避ける様に、頭を下げた姿勢を崩さない。

驚いている青年に、三葉は下を向いたまま、黙して何も応えない………。

次の瞬間、三葉は決心したように右手を離し、髪を結んでいる赤い

組み紐を解くと、片方の手でギュッと掴んだままの青年の手首に

ムチのように叩きつけ、クルリと反転して戻って来た端を掴むと、

一瞬で結び付けた………。

青年の手首に、美しい赤い紐の蝶が、羽根を休めていた………。

三葉は再び、両手で青年の手首をギュッと掴んだ……。

その指先が、微かに震えている………。

その震えが、指を伝わり、腕から肩に拡がってゆく……

三葉は、怖さに震えていたのだ………。

プラチナの光のフラッシュを浴びた、その一瞬、

三葉の失われた五年の「時間」は戻っていた——。

切れ落ちたミサンガが誰の物で、今、必死で、その腕を

二度と離すまいと、固く掴んでいる青年が誰なのか……。

三葉は全身で確信していた……。

この手を離せば、再び青年は二度と戻って来ない………。

三葉は不安と怖れが吹き荒ぶ暗闇の嵐の中で、もがくしか

無かった……。

三葉の眼には、涙で霞んだ石畳の地面が映っていた….。

顔すら挙げられない……。

唇の端が小刻みに震えている……。

ひと言でも発すれば、その場に泣き崩れてしまうのは明らかだった。

それでも三葉は、全身の有りったけの勇気を絞って、唇をギュッと

噛み締めて、途切れ途切れに、必死で言葉を紡ぐのだった……。

「……滝………君………。」

「……滝……君………。」

「……私の事………、…..覚えて………」

ここ迄で精一杯だった……。

これ以上眼を開けていては、泣き崩れる……。

大粒の涙が、滝の手首の赤い蝶の透ける羽根に

滴り落ちた……。

三葉が眼を閉ざし、文字通りの闇の嵐の中に、再び身を

委ねようとした、その瞬間………、

青年の腕を掴んだまま、小刻みに震えている掌に

三葉は、暖かい何かを感じた……。

その暖かさは、硬く凍え冷え切っていた三葉の心と躰に、

一瞬で染み渡った。そして、又、温かい何かが……。

闇の嵐は、閑かに光に払われ、姿を消して行った……。

三葉は、暖かい光の繭玉の中で目覚めようとしている………。

三葉は閉じていた眼を開けると、うつむいていた顔を、

青年の方に、ゆっくりと挙げて行った………。

その唇から震えは消えていた……。

三葉の視界に、青年の腕が、胸が映し出され、そして、

微笑を浮かべた唇が映った、その時………、

青年の口元が微かに動いた。

それは空気を暖かく震わせ、三葉の心と躰を優しく

抱きしめていた………。

「……三葉…………。…….忘れないよ……..、君の……名前……….。」

黄昏の茜色の光が二人を包み、長い影法師は交わり、

一つになっている。







(側役人) 御無沙汰してオリマス。側役人デス。

エーッ、本来は、ココで「オシマイ」ナノでアリマスが、

そうトハ参りマセヌ。

よく見て下さい。「……一つになっていた。」ではアリマセン。

よく見て下さい。「……一つになっている。」のデス。

私、細かい事が気になるタチでして、

「いた。」なら無事、終わりナノでアリマス。

しかし、ソウでは無い!

ソウ、「続き」がアルノデス。

エーッ、私は、勿論、反対したノデありますが、

コレは、あくまで「ヨタマ作戦」、即ち、かの与太郎が、

頭をヒネッテ作りし物。オマケがゴザイマス。

御奉行様も「アルがママで良い。」との事、

以下、ノーカット完全版をお届けシマス。

ですから、これから先は、別世界。

気分を害す方もイラッシャルでしょうし、又、コレ迄、

気分を害されていた方には、福音となるヤも知れマセヌ。

エーッ、兎にも角にも、私の責任ではアリマセンので、

何卒、宜しく、お引き立て、願い奉りマス………。

(エッ? 拙者の出番はコレ迄? ソーナノデスカ、

オツカレ様デシタ。アッ、又、ウツッタ!)





三葉と滝が「二人だけの世界」に没入している、その最中……、

先刻、滝が登って来た、水宮神社の長い石段の遥か下から、

「節回し?」が有る様な無い様な、一連の「文句」が、

ドスン、ドスンという足音を引き連れて、近づいて来た………。

「歌?」と思われた方もイラッシャルかと存じマスが、

断じて、ソーでは有りマセヌ。

「百聞は一見、イヤ、一聞に如かず」でアリマス。

実際に、その「文句」をお聞き頂きまショウ。

「アッタマ来る来る、頭クルっ!アンナ野郎に告(コク)られるッチャー

自分で自分をケナシてヤリてぇー!バカでマヌケでオッチョコでぇー!

テメェー、バカヤロ、コノヤロ、チキショー!

もう一発、喰らわせトキャ良かったカナカナカナのヒグラシ様デェー!

ヨーッシャ、明日、一発、カマシタれーっ!!」

とか何とか、辺り構わず大きな声を震わせ、学生鞄を振り子として

リズムを取りながら、一段飛びで長い石段をドスンドスンと

駆け登って来る何者か……。

そして、早くも、最上段近くに差し掛かると、その頭だけが、

神社の石畳の端から、顔を出した……。

その眼は、獣の様にギラギラとし、目聡く三葉と青年の姿を捕らえるヤ

一瞬、動きがフリーズし、小声が洩れた……、

「 (….アッ…!!)」

しかし、その直後には、凄まじい勢いで石段を登り切るヤ石畳の端には、

夕陽の逆光を浴びた全身のシルエットが浮かび上がっていた………。

それは、間違えようも無い、学生鞄を片手に下げたセーラー服姿の三葉

だった……ではナイ、顔形はOO姉の完璧なコピーである、中坊の、

四葉でアッタ……。

そして、次の瞬間、凄まじい「ウォーッ!!」という雄叫び(オタケビ)、

イヤ、雌叫び(メタケビ)を挙げるや、学生鞄を空中高くほうり投げ、

一気に、青年に向かって駆け出した……。

青年と三葉の二人だけの世界を護っているバリアは、

先の雌叫び(メタケビ)で、早くもヒビが入り、

続く音響攻撃に、脆くも全て瓦解した………。

「ウォーッ!! 滝兄(タキニィ)ダッ!! 滝兄ダッ!!、

アタイの、大事な大事な大事な、滝兄ダァーッ!!」

投げた鞄が、ユックリと回転しながら、放物線を描いて地に着く前に、

四葉は既に滝の背後に迫っていた。そして、鞄が地に着くのと、

四葉が滝の背中に飛び付き、強制オンブしたノが、同時でアッタ……。

「アーッ、本当に!!本物の!!滝兄ダッ—-!!アリガトねっ!!アリガトねっ!!

本当に、アリガトねっー!!」

四葉は、両足を滝の胴の前でガッチリと組み合わせ、フリーな両手で

滝の顔を挟むと、顔と言わず、首と言わず、頭と言わず、

キスの、雨を降らした。

そのドシャ降りが、一瞬、止んだ……。

四葉は、滝の口元を、いや、唇をジッと見つめてイタ……。

「イイや、戴いチャエッ!」

滝の唇に、四葉が自分の唇を無理矢理ヒッツケようとシタ、その途端、

何者かが、ソレを遮った……。

「四坊(ヨツボウ)、ソコは三葉の姉ヤンに、取っといて挙げナキャ

いけネェーや……。」

文字通り、声はすれども、姿は無かった………。

しかし、四葉の口元は、何者かの見えざる手によって、猿ぐつわの様に

塞がれていた……。

「……放せッ!!バッカ野郎ッ….!オセッカイすんナッ!!噛むゾッ!!」

四葉は、見えざる何者かが、判っている様な、口振りデアル……。

「痛テテ….、本当に噛みヤガッタ……。四坊は、マダマダ、

お子チャマだネェー…..。」

次の瞬間、四葉の躰は、滝の背中から引っ剥がサレルと、

子犬の様に、地面に転がっていた……。

「痛テェーじゃネェーか!! このバカッ!!」

四葉は、言葉の終わる前には既に立ち上がって、滝に向かって

突進していた……。

しかし、又もや、見えざる何者かが、四葉の前に、立ち塞がった……。

「だから、ドケやがれッテ、言ってンだっ!!」

「マァマァ、四坊、クールダウン、クールダウン……。」

「ウルセェーッ、いつも四坊、四坊、言いヤガッテ!

アタイは、坊ヤじゃネェーや。レッキとした、お嬢ちゃんデェー!!」

「オヤオヤ、ソレは勘弁ナッ! だけど四坊….、

アッ! 又、言っチャった……。」

「だから、坊やジャねぇッテ、このバカタレッ……!!」

四葉は、姿の無い何者かに向かって、ワメいてイタかと思いきや、

ソウではナイ………。

滝と四葉の間の空宙に、両手を広げた透明な人形(ヒトガタ)の輪郭が

フーッと浮かび上がったノダ………。

ソレは、急速に半透明に移行し、見る見るうちに、実体を現して行く

………。

そして、粋な縞模様の着流しの後ろ姿が、浮かび上がる、その間際、

その背中に、満開の桜が風吹き散る絵姿が有るのを、

滝は、見逃さなかった!!

「アッ!! 御奉行様……!!」

滝の言葉が終わる迄には、滝の目の前に、粋な縞柄と腕と度胸を

纏った、凛々しい男の後ろ姿が有った。

男は、振り返ると……、

「……何デェー、オイラの事も、一緒に想い出しチマッタのカイ……!

こりゃ、いけネェーや。奉行所の記憶除去班の連中は、全員、

お灸モンダョ!原因究明する迄、オヤツは抜きダナ……!」

(以下、掛け合いに成りマス。)

滝 「……御奉行様……何で、ココに……?」

奉行 「そりゃー、滝兄の行末が心配じゃネェーカイ、って言いたい

  所だが、ソーじゃネェーや。

  オイラ、この四坊を迎えに来たんダヨ。

  実は、オイラと四坊は、もう三度もバディを組んで、“事件”を

  解決してイルんダヨ。

  ソレも、とんでもネェー、アッチャラ、コッチャラでネッ!!

  ソレで、今度も神社の石段の登り口で、四坊を待ってタラ、

  やっとこさ、現れるなり、トンでもネェー歌ぁーガナリ立てて、

  アンマシ面白レェーから後付いて来たら、サッキのザマさ。

  だけどネッ、アンマシ時間もネェーンダ。

  四坊、借りてくカラ、滝兄、後の事ァ頼んダゼ!」

滝 「……頼むッテ言われテモ……。」

奉行 「野暮言ってンじゃネェーょ、滝兄ョ。」

ココで、奉行は、何が何だか判らず、呆然としてイル三葉に

声を掛けた……。

奉行 「三葉チャン、ビックリさせて、勘弁ナッ!

  オイラの事ァ、この滝兄から聞いとくれ!

  それから、四坊とオイラの事に付いチャぁ、

  四坊が戻って来てから、本人が話すダローょ。

  心配イラネェー、四坊は、無事にコノ場所、ッテカ

  コノ時間のコノ場所に、必ず戻すカラ……。」

三葉 「……御奉行様……で宜しかったでショウか?……貴方と

     四葉は……、マサカ………入れ替わり……?!!」

奉行 「オッ! さすが三葉チャン! 宜しかったデスョ。

  半分、当たり。デモ、半分、外れダネ。

  入れ替わりニューバージョン。

  互いの躰に、時空を超えて、出入り自由。

  早ェー話、四坊の躰にオイラが入ったとスルョ。

  ビックリしちゃ行けネェーョ。

  四坊の意識は、残っているコトが出来るんダゼ!

  ソレも、自由な割合で。

  共同生活なら、半分コ、端ッコは、100%オイラか、

  100%四坊、オイラ30%四坊70%もアリマスョ。

  だからネ、ココに四坊が居ても、その実体(意識)は

    ①オイラの場合もアリャ、

  (コン時ャ、四坊は、0%だけど、居無いンじゃネェー、

  完全に隠れんぼシテルンだよネ。いざッテ時ャパッと現れて、

  オイラをガブッと噛み付く事も出来るから、オッカネェーんダヨ。)

  ②そして、オイラと四坊の半分同居の場合も、

  ③それから、(オイラが隠れんぼシテる)四坊の場合も有るンダヨね。

  ソレとネェ、三葉チャンと滝兄は、入れ替わると、同時に同じ場所

  にはマズ、居られネェーだろう?

  オイラ達は自由に出来るンダヨ。

  ソレにサァー、二人が合体してる時ャ、身体能力も、頭(オツム

  の脳力もスーパーアップ。

  1+1=2 どころか 1+1=11 てな訳ョ。

  スーパーヒーローの誕生。

  それも、四坊バージョンとオイラバージョンの二人。

  コノややっこしい、シッチャカメッチャカのコンビが、

  アチャラコチャラで、ややっこしい“事件”を、もう三度も

  ヤヤコシク解決して来たッテ訳ョ。」

奉行は、ココまで話すと、今度は四葉に向かって

奉行 「四坊、待たせたナッ、それじゃ、行こうか?」

四葉 「イヤでぇー!! アタイは金輪際、バカ金となんか

   ドコだって、絶対に行かネェーャィ!!」

奉行 「相変わらずの、オ子チャマ駄々ッ子ダネェー、四坊は。」

四葉 「二度と言わネェーぞ、バカ金!! アタイは坊ヤじゃネェー、

   お嬢ちゃんデェーッ!!」

奉行 「オーッ、度々、悪う御座ンシタ。しかし、で御座イマスよ、

   お嬢様、今回の“事件”は、幕末、それも四坊お気に入りの、

   坂本龍馬がらみの……」

四葉 「じゃ、アタイ行くッ!!」

奉行、滝と三葉に向かって、

奉行 「滝兄よ、こんな訳で、四坊の事ァ、オイラに任せろ。

   で、三葉チャンの事ァ、滝兄、オヌシに任せたゾ!!

   大丈夫ダヨ。自信、持ちな!!

   何しろ、お前ェーさんは、三葉チャンの為に、一度は

   死んだ身ダッ!そして、三葉チャンも滝兄を救い出す為、

   三年の辛苦に耐えた……。

   コノ事ァ、OO奉行所の中でも、モッパラの語り草ダゼ!

   ……オッとイケネェー、もうコンナ時間ダッ!

        それじゃ、四坊、借りてくゼッ!!」

奉行、四葉に向かって、

奉行 「それじゃ、いつも通り、合体してジャンプだぜ。イイかい?」

四葉 「オーよっ!!」

言うが速いか、四葉は奉行の方に一気に駆け寄ったか、に見えたが、

その姿は、瞬く間に、煙のように消え、奉行独りが残っていた……。

しかし、その躰は、今迄とは別人の「気」で満ちてイタ……。

奉行-四葉 「滝兄、三葉、それじゃァ、アバヨ!!」

……その声には、奉行と四葉の二人の響きが、明らかに有った………。

そして、煙のように立ち消えて行く奉行………。

寄り添って立ちつくす、滝と三葉の二人の影法師は、

更に長く延びていた。

黄昏の赤い残照が、最期の輝きを放ち、神社の石畳に放り残された

四葉の鞄の口金を射て、一瞬、プラチナに眩しく輝いた、その時……。

鞄の持ち手を掴もうとシテイル、人影の様な物が、フーッと現れた……。

見る間に、鞄は地面を離れ、宙に浮かぶ……。と、瞬く間に、右手に

鞄を下げた、人の姿が現れた………。

………四葉? イヤ、四葉だッ……!!

その顔と服は、泥と埃と汗で汚れてイル……。

「滝兄、姉ヤン、タダイマ。アーッ、腹減った…..。何か喰わせろ!!」



「君の名は。」ヨタマ作戦part2エピローグ

彗星落下から5年……。

晩夏

水宮神社

油蝉からヒグラシの鳴き声に変わってゆく……黄昏時…..。

境内を、静かに箒で掃き清めて居る、白い衣と緋色の袴の巫女…..。

後ろ髪を、緋色の組み紐で蝶の形に結んでいる……。

三葉……。

竹箒が、石畳を払うサラサラという閑かな音の拡がりの向こう、

微かなハァハァという息遣いと、長い石段を急いで登って来る、

確かな足音が近付いて来る……。

石段を登りきり、両手を膝に付け、しばし息を整えている青年。

「イャー、結構キツゥー……!」

青年は顔を上げると、視界に入った三葉の向こうから、声をかける。

肩に下げた大型のバックから、カメラとスケッチブックが顔を

出していた。

「すいません、お社の写真、撮らさして戴けますか?それと、

スケッチ宜しいですか……?」

三葉は黙ったまま、閑かに頷いた。

「ありがとうございます。」

青年は軽く頭を下げ、足早に三葉の傍らを通り過ぎ社殿に

向かおうとした。

そして、三葉が払った箒の視線の先に、青年が肩に下げたバックの

持ち手を右手で持ち直す様が映った。

その刹那、青年の手首に巻かれていた、年代物の赤黒い何物かが、

遂に切れて、落ちかけている事に気づいた。

「アッ、何か落ちま………」

三葉の言葉はココで途絶えた。

何故なら、三葉の眼前には、信じられない光景が広がっているからだ。

地に落ちるハズの物が、スローモーションの様に、宙に漂い始めている。

そして、その動きは更に遅くなってゆく……。

遂に、地に着く前に、ソレは停止した。

次の瞬間、三葉は閑かな衝撃の中に居た。

時間が、止まった?いや、違う!

時間は、確実に、今も流れている。

三葉の、時間に応じる感覚が、一気に、研ぎ澄まされた……。

紐は、三葉の指先、数10cmの空中に浮かんで静止していた。

勿論、三葉の指の動きも視界も、完全に固定していた。

しかし、三葉の意識は、限界を軽々と超え、研ぎ澄まされてゆく……。

そして、三葉は見た……。

光を、いや、光の生まれる瞬間を………。

黄昏の茜色の中、紐の切れた端の繊維の断片の一点が、微かに輝くと

極めて小さな光の粒が現れた……。

すると、四方に極限の細さの光の筋糸を放ちながら、三葉に向かって来る……。

この僅かな間にも、堰を切った様に、次々と様々な色をまとった光の点が

現れては、たちまち光の筋糸を放ち始める……。

その光景の全てが、スローモーションの様に、三葉の眼にハッキリと映った。

種々な色の光線の束は、交差し、重なり合い、混じり合って行く……。

そして、衝突をした光は、一瞬で色を変え、更に繊細な光の綿毛となり、

様々な形を造りながら、閑かに世界に拡がって行く……。

そうした光の粒と筋が三葉に達すると、

ある物は、何も無かったかの様に、三葉の躰を通り抜け、

ある物は、三葉の躰の表面でハネ返り向きを変え、あるいは光の綿毛と成り

周囲に拡がって行った……。

そして、三葉の躰と心を組み立てている全ての要素の、最後の一つが

そうした光の粒と束に出逢った、その瞬間、

プラチナの光のフラッシュが

三葉の全てを包み、貫いた……。

三葉は茫然とするしか、無かった………。

しかし、全ては、「一瞬」が「永遠」に引き延ばされた間に生じた「瞬時」

の出来事であった………。

そして次の瞬間、

三葉の「時間」は、2つの意味で、戻っていた……..。

青年が、三葉の「アッ、何か落ちま……」の声に踵を返し三葉の傍らに

戻って来た。

「イャー、とうとう切れチャイましたか…..。何か良い事でも起き……」

こう言いながら、青年が手を伸ばして、地面に落ちているミサンガを

拾おうとした、その瞬間、

三葉は突然、青年の手首を上から両の手でギュッと掴んだ。

「どッ、ドウしたんですか……?」

三葉は腰を半ば折り、青年の眼を避ける様に、頭を下げた姿勢を崩さない。

驚いている青年に、三葉は下を向いたまま、黙して何も応えない………。

次の瞬間、三葉は決心したように右手を離し、髪を結んでいる赤い

組み紐を解くと、片方の手でギュッと掴んだままの青年の手首に

ムチのように叩きつけ、クルリと反転して戻って来た端を掴むと、

一瞬で結び付けた………。

青年の手首に、美しい赤い紐の蝶が、羽根を休めていた………。

三葉は再び、両手で青年の手首をギュッと掴んだ……。

その指先が、微かに震えている………。

その震えが、指を伝わり、腕から肩に拡がってゆく……

三葉は、怖さに震えていたのだ………。

プラチナの光のフラッシュを浴びた、その一瞬、

三葉の失われた五年の「時間」は戻っていた——。

切れ落ちたミサンガが誰の物で、今、必死で、その腕を

二度と離すまいと、固く掴んでいる青年が誰なのか……。

三葉は全身で確信していた……。

この手を離せば、再び青年は二度と戻って来ない………。

三葉は不安と怖れが吹き荒ぶ暗闇の嵐の中で、もがくしか

無かった……。

三葉の眼には、涙で霞んだ石畳の地面が映っていた….。

顔すら挙げられない……。

唇の端が小刻みに震えている……。

ひと言でも発すれば、その場に泣き崩れてしまうのは明らかだった。

それでも三葉は、全身の有りったけの勇気を絞って、唇をギュッと

噛み締めて、途切れ途切れに、必死で言葉を紡ぐのだった……。

「……滝………君………。」

「……滝……君………。」

「……私の事………、…..覚えて………」

ここ迄で精一杯だった……。

これ以上眼を開けていては、泣き崩れる……。

大粒の涙が、滝の手首の赤い蝶の透ける羽根に

滴り落ちた……。

三葉が眼を閉ざし、文字通りの闇の嵐の中に、再び身を

委ねようとした、その瞬間………、

青年の腕を掴んだまま、小刻みに震えている掌に

三葉は、暖かい何かを感じた……。

その暖かさは、硬く凍え冷え切っていた三葉の心と躰に、

一瞬で染み渡った。そして、又、温かい何かが……。

闇の嵐は、閑かに光に払われ、姿を消して行った……。

三葉は、暖かい光の繭玉の中で目覚めようとしている………。

三葉は閉じていた眼を開けると、うつむいていた顔を、

青年の方に、ゆっくりと挙げて行った………。

その唇から震えは消えていた……。

三葉の視界に、青年の腕が、胸が映し出され、そして、

微笑を浮かべた唇が映った、その時………、

青年の口元が微かに動いた。

それは空気を暖かく震わせ、三葉の心と躰を優しく

抱きしめていた………。

「……三葉…………。…….忘れないよ……..、君の……名前……….。」

黄昏の茜色の光が二人を包み、長い影法師は交わり、

一つになっている。

(側役人) 御無沙汰してオリマス。側役人デス。

エーッ、本来は、ココで「オシマイ」ナノでアリマスが、

そうトハ参りマセヌ。

よく見て下さい。「……一つになっていた。」ではアリマセン。

よく見て下さい。「……一つになっている。」のデス。

私、細かい事が気になるタチでして、

「いた。」なら無事、終わりナノでアリマス。

しかし、ソウでは無い!

ソウ、「続き」がアルノデス。

エーッ、私は、勿論、反対したノデありますが、

コレは、あくまで「ヨタマ作戦」、即ち、かの与太郎が、

頭をヒネッテ作りし物。オマケがゴザイマス。

御奉行様も「アルがママで良い。」との事、

以下、ノーカット完全版をお届けシマス。

ですから、これから先は、別世界。

気分を害す方もイラッシャルでしょうし、又、コレ迄、

気分を害されていた方には、福音となるヤも知れマセヌ。

エーッ、兎にも角にも、私の責任ではアリマセンので、

何卒、宜しく、お引き立て、願い奉りマス………。

(エッ? 拙者の出番はコレ迄? ソーナノデスカ、

オツカレ様デシタ。アッ、又、ウツッタ!)

三葉と滝が「二人だけの世界」に没入している、その最中……、

先刻、滝が登って来た、水宮神社の長い石段の遥か下から、

「節回し?」が有る様な無い様な、一連の「文句」が、

ドスン、ドスンという足音を引き連れて、近づいて来た………。

「歌?」と思われた方もイラッシャルかと存じマスが、

断じて、ソーでは有りマセヌ。

「百聞は一見、イヤ、一聞に如かず」でアリマス。

実際に、その「文句」をお聞き頂きまショウ。

「アッタマ来る来る、頭クルっ!アンナ野郎に告(コク)られるッチャー

自分で自分をケナシてヤリてぇー!バカでマヌケでオッチョコでぇー!

テメェー、バカヤロ、コノヤロ、チキショー!

もう一発、喰らわせトキャ良かったカナカナカナのヒグラシ様デェー!

ヨーッシャ、明日、一発、カマシタれーっ!!」

とか何とか、辺り構わず大きな声を震わせ、学生鞄を振り子として

リズムを取りながら、一段飛びで長い石段をドスンドスンと

駆け登って来る何者か……。

そして、早くも、最上段近くに差し掛かると、その頭だけが、

神社の石畳の端から、顔を出した……。

その眼は、獣の様にギラギラとし、目聡く三葉と青年の姿を捕らえるヤ

一瞬、動きがフリーズし、小声が洩れた……、

「 (….アッ…!!)」

しかし、その直後には、凄まじい勢いで石段を登り切るヤ石畳の端には、

夕陽の逆光を浴びた全身のシルエットが浮かび上がっていた………。

それは、間違えようも無い、学生鞄を片手に下げたセーラー服姿の三葉

だった……ではナイ、顔形はOO姉の完璧なコピーである、中坊の、

四葉でアッタ……。

そして、次の瞬間、凄まじい「ウォーッ!!」という雄叫び(オタケビ)、

イヤ、雌叫び(メタケビ)を挙げるや、学生鞄を空中高くほうり投げ、

一気に、青年に向かって駆け出した……。

青年と三葉の二人だけの世界を護っているバリアは、

先の雌叫び(メタケビ)で、早くもヒビが入り、

続く音響攻撃に、脆くも全て瓦解した………。

「ウォーッ!! 滝兄(タキニィ)ダッ!! 滝兄ダッ!!、

アタイの、大事な大事な大事な、滝兄ダァーッ!!」

投げた鞄が、ユックリと回転しながら、放物線を描いて地に着く前に、

四葉は既に滝の背後に迫っていた。そして、鞄が地に着くのと、

四葉が滝の背中に飛び付き、強制オンブしたノが、同時でアッタ……。

「アーッ、本当に!!本物の!!滝兄ダッ—-!!アリガトねっ!!アリガトねっ!!

本当に、アリガトねっー!!」

四葉は、両足を滝の胴の前でガッチリと組み合わせ、フリーな両手で

滝の顔を挟むと、顔と言わず、首と言わず、頭と言わず、

キスの、雨を降らした。

そのドシャ降りが、一瞬、止んだ……。

四葉は、滝の口元を、いや、唇をジッと見つめてイタ……。

「イイや、戴いチャエッ!」

滝の唇に、四葉が自分の唇を無理矢理ヒッツケようとシタ、その途端、

何者かが、ソレを遮った……。

「四坊(ヨツボウ)、ソコは三葉の姉ヤンに、取っといて挙げナキャ

いけネェーや……。」

文字通り、声はすれども、姿は無かった………。

しかし、四葉の口元は、何者かの見えざる手によって、猿ぐつわの様に

塞がれていた……。

「……放せッ!!バッカ野郎ッ….!オセッカイすんナッ!!噛むゾッ!!」

四葉は、見えざる何者かが、判っている様な、口振りデアル……。

「痛テテ….、本当に噛みヤガッタ……。四坊は、マダマダ、

お子チャマだネェー…..。」

次の瞬間、四葉の躰は、滝の背中から引っ剥がサレルと、

子犬の様に、地面に転がっていた……。

「痛テェーじゃネェーか!! このバカッ!!」

四葉は、言葉の終わる前には既に立ち上がって、滝に向かって

突進していた……。

しかし、又もや、見えざる何者かが、四葉の前に、立ち塞がった……。

「だから、ドケやがれッテ、言ってンだっ!!」

「マァマァ、四坊、クールダウン、クールダウン……。」

「ウルセェーッ、いつも四坊、四坊、言いヤガッテ!

アタイは、坊ヤじゃネェーや。レッキとした、お嬢ちゃんデェー!!」

「オヤオヤ、ソレは勘弁ナッ! だけど四坊….、

アッ! 又、言っチャった……。」

「だから、坊やジャねぇッテ、このバカタレッ……!!」

四葉は、姿の無い何者かに向かって、ワメいてイタかと思いきや、

ソウではナイ………。

滝と四葉の間の空宙に、両手を広げた透明な人形(ヒトガタ)の輪郭が

フーッと浮かび上がったノダ………。

ソレは、急速に半透明に移行し、見る見るうちに、実体を現して行く

………。

そして、粋な縞模様の着流しの後ろ姿が、浮かび上がる、その間際、

その背中に、満開の桜が風吹き散る絵姿が有るのを、

滝は、見逃さなかった!!

「アッ!! 御奉行様……!!」

滝の言葉が終わる迄には、滝の目の前に、粋な縞柄と腕と度胸を

纏った、凛々しい男の後ろ姿が有った。

男は、振り返ると……、

「……何デェー、オイラの事も、一緒に想い出しチマッタのカイ……!

こりゃ、いけネェーや。奉行所の記憶除去班の連中は、全員、

お灸モンダョ!原因究明する迄、オヤツは抜きダナ……!」

(以下、掛け合いに成りマス。)

滝 「……御奉行様……何で、ココに……?」

奉行 「そりゃー、滝兄の行末が心配じゃネェーカイ、って言いたい

  所だが、ソーじゃネェーや。

  オイラ、この四坊を迎えに来たんダヨ。

  実は、オイラと四坊は、もう三度もバディを組んで、“事件”を

  解決してイルんダヨ。

  ソレも、とんでもネェー、アッチャラ、コッチャラでネッ!!

  ソレで、今度も神社の石段の登り口で、四坊を待ってタラ、

  やっとこさ、現れるなり、トンでもネェー歌ぁーガナリ立てて、

  アンマシ面白レェーから後付いて来たら、サッキのザマさ。

  だけどネッ、アンマシ時間もネェーンダ。

  四坊、借りてくカラ、滝兄、後の事ァ頼んダゼ!」

滝 「……頼むッテ言われテモ……。」

奉行 「野暮言ってンじゃネェーょ、滝兄ョ。」

ココで、奉行は、何が何だか判らず、呆然としてイル三葉に

声を掛けた……。

奉行 「三葉チャン、ビックリさせて、勘弁ナッ!

  オイラの事ァ、この滝兄から聞いとくれ!

  それから、四坊とオイラの事に付いチャぁ、

  四坊が戻って来てから、本人が話すダローょ。

  心配イラネェー、四坊は、無事にコノ場所、ッテカ

  コノ時間のコノ場所に、必ず戻すカラ……。」

三葉 「……御奉行様……で宜しかったでショウか?……貴方と

      四葉は……、マサカ………入れ替わり……?!!」

奉行 「オッ! さすが三葉チャン! 宜しかったデスョ。

  半分、当たり。デモ、半分、外れダネ。

  入れ替わりニューバージョン。

  互いの躰に、時空を超えて、出入り自由。

  早ェー話、四坊の躰にオイラが入ったとスルョ。

  ビックリしちゃ行けネェーョ。

  四坊の意識は、残っているコトが出来るんダゼ!

  ソレも、自由な割合で。

  共同生活なら、半分コ、端ッコは、100%オイラか、

  100%四坊、オイラ30%四坊70%もアリマスョ。

  だからネ、ココに四坊が居ても、その実体(意識)は

     ①オイラの場合もアリャ、

  (コン時ャ、四坊は、0%だけど、居無いンじゃネェー、

  完全に隠れんぼシテルンだよネ。いざッテ時ャパッと現れて、

  オイラをガブッと噛み付く事も出来るから、オッカネェーんダヨ。)

  ②そして、オイラと四坊の半分同居の場合も、

  ③それから、(オイラが隠れんぼシテる)四坊の場合も有るンダヨね。

  ソレとネェ、三葉チャンと滝兄は、入れ替わると、同時に同じ場所

  にはマズ、居られネェーだろう?

  オイラ達は自由に出来るンダヨ。

  ソレにサァー、二人が合体してる時ャ、身体能力も、頭(オツム

  の脳力もスーパーアップ。

  1+1=2 どころか 1+1=11 てな訳ョ。

  スーパーヒーローの誕生。

  それも、四坊バージョンとオイラバージョンの二人。

  コノややっこしい、シッチャカメッチャカのコンビが、

  アチャラコチャラで、ややっこしい“事件”を、もう三度も

  ヤヤコシク解決して来たッテ訳ョ。」

奉行は、ココまで話すと、今度は四葉に向かって

奉行 「四坊、待たせたナッ、それじゃ、行こうか?」

四葉 「イヤでぇー!! アタイは金輪際、バカ金となんか

   ドコだって、絶対に行かネェーャィ!!」

奉行 「相変わらずの、オ子チャマ駄々ッ子ダネェー、四坊は。」

四葉 「二度と言わネェーぞ、バカ金!! アタイは坊ヤじゃネェー、

   お嬢ちゃんデェーッ!!」

奉行 「オーッ、度々、悪う御座ンシタ。しかし、で御座イマスよ、

   お嬢様、今回の“事件”は、幕末、それも四坊お気に入りの、

   坂本龍馬がらみの……」

四葉 「じゃ、アタイ行くッ!!」

奉行、滝と三葉に向かって、

奉行 「滝兄よ、こんな訳で、四坊の事ァ、オイラに任せろ。

   で、三葉チャンの事ァ、滝兄、オヌシに任せたゾ!!

   大丈夫ダヨ。自信、持ちな!!

   何しろ、お前ェーさんは、三葉チャンの為に、一度は

   死んだ身ダッ!そして、三葉チャンも滝兄を救い出す為、

   三年の辛苦に耐えた……。

   コノ事ァ、OO奉行所の中でも、モッパラの語り草ダゼ!

   ……オッとイケネェー、もうコンナ時間ダッ!

         それじゃ、四坊、借りてくゼッ!!」

奉行、四葉に向かって、

奉行 「それじゃ、いつも通り、合体してジャンプだぜ。イイかい?」

四葉 「オーよっ!!」

言うが速いか、四葉は奉行の方に一気に駆け寄ったか、に見えたが、

その姿は、瞬く間に、煙のように消え、奉行独りが残っていた……。

しかし、その躰は、今迄とは別人の「気」で満ちてイタ……。

奉行-四葉 「滝兄、三葉、それじゃァ、アバヨ!!」

……その声には、奉行と四葉の二人の響きが、明らかに有った………。

そして、煙のように立ち消えて行く奉行………。

寄り添って立ちつくす、滝と三葉の二人の影法師は、

更に長く延びていた。

黄昏の赤い残照が、最期の輝きを放ち、神社の石畳に放り残された

四葉の鞄の口金を射て、一瞬、プラチナに眩しく輝いた、その時……。

鞄の持ち手を掴もうとシテイル、人影の様な物が、フーッと現れた……。

見る間に、鞄は地面を離れ、宙に浮かぶ……。と、瞬く間に、右手に

鞄を下げた、人の姿が現れた………。

………四葉? イヤ、四葉だッ……!!

その顔と服は、泥と埃と汗で汚れてイル……。

「滝兄、姉ヤン、タダイマ。アーッ、腹減った…..。何か喰わせろ!!」

「君の名は。」ヨタマ作戦part1プロローグ

夏の終わり……。

OO駅頭……。

雑踏の中、蝉の鳴き声が響いている……。

駅前のベンチの端に、所在なげに腰かけている、

どこか垢抜け無い制服を着ている長い髪の少女……。

三葉……。

痛みかけの学生靴の足元に転がっている、乾いた蝉の抜け殻に

眼を落としている……。

その美しく整った後ろ髪には、赤と白の絹糸で編み込まれた組み紐を

輪郭とした蝶が、閑かに羽根を休めていた。

時折、フッと頭を上げ、改札の方を見詰めるが、

再び、うな垂れてしまう……。

数分ごとに発着する電車から、乗客が押し出された行く……。

駅員のアナウンスと車体の軋む音に、少年の、ハァハァという

息遣いが、かぶさる……。

そして、少年のタッタッという、駆ける足音が加わってゆく……。

ブランドのスニーカー、どこか垢抜けたネクタイ姿の制服が、

駅の階段を一気に駆け上がる……。

そのまま改札を抜けようとして、間一髪、中年の男性客と

ぶつかりそうになる……。

「ア……ッ、スイマセン……。

男はチラッと顔をしかめるが、そのまま過ぎ去る……。

少年は、改札を出ると両手を膝に当て、前屈みで息を整えている……。

「イヤーッ、結構キツーッ……!」

同時に、首を左右に回して、誰かを眼で追っていた……。

そして、駅前のベンチの端で、うつむいている少女を見つけると、

少年の表情がパッと明るくなった。

同時に、手を思い切って振りながら、少女に呼びかけた……。

「三葉さーん!! コッチコッチ……!!」

少年は、そのまま小走りで、ベンチの少女の前に立ち、

学生カバンを開けて、何やら取り出そうとした……。

「イヤーッ、間に合わないかと、冷や冷やでしたョ。

エーッと、コレコレッ……!」

少年が取り出したのは、安物の合皮のケースに入れられた

学生証であった。

三葉は、それを手に取り、ジッと見詰めていた……。

美しく整った眉の間に、深い皺が浮かんでいる……。

「ネッ! アッ、それと肝心な、コレッ……!!」

少年は、再び鞄に手を入れ、何かを掴むと、学生証と引き換えに

三葉の手に握らせた……。

単色の紅い絹糸で編み込まれた組み紐が、そこに有った……。

「コレで、約束、守りましたからネッ! アッ、それからノートの日記帳、

チャンと机の上に置いて預かってマスョ。勿論、絶対に読んでマセンから。

アーッ、本当、助かったァー……。」

少年は、ココまで言うと、三葉の表情が一気に雲っている事に気付いた。

三葉の唇の両端は、微かに震えている……。

「 (……エエッ……?) 」

何と言葉を掛けたら良いのか……少年は戸惑うばかりだった。

次の瞬間、三葉は決心したように、少年の手首を左手でギュッと

掴むと同時に、紅い組み紐をその腕に叩き付けた。

反動で組み紐は、少年の腕をクルリと回る。

三葉は、一瞬のスキを捉え、それを結び付けていた……。

少年の腕に、美しい紅い蝶が羽を休めていた……。

「アッ……」 少年は、小さな声をあげた。

しかし、三葉は、もう何も言えない……。

唇の震えは、三葉の肩から腕に広がっていた……。

言葉を紡げば泣き崩れそうになるのを、必死で

こらえていたのだ……。

それでも、勇気を絞って、震える口を開いた……。

「……滝……君……。」

「……滝…君……、私の事……忘れな……」

三葉の声は、余りにか細く、駅前の雑踏の音の中で、

かき消されて行く……。

「……エッ?何ッ?……三葉さん……本当にどうしたンデ……」

少年、いや、滝がココまで尋ねた時、三葉の眼から溢れ落ちた涙が、

紅い蝶の羽根を透かして、滝の腕を叩いた。

その途端、滝はハッとなる……。

三葉が泣いた事に驚いた…のでは無い。

その時、滝は、三葉の心の景色がハッキリと見えたのだ……。

絶望と恐怖の嵐の只中で三葉は泣き叫んでいた……。

そして、三葉の音に成らない叫び声が、滝にはハッキリと聞こえた……。

「……滝……君……!!、滝…君……!!、……私の事……、忘れないで……!!!」

三葉の心が、強く弾かれ震えた時、滝の心も強く震える……。

何故、こんな事が……?

滝には訳が判らない……。

しかし、そんな迷いを一蹴する、信じ難い1つの確信が、

滝の心の底から一気に沸き上がり、言葉と成って、

滝の口から漏れ溢れた……。

「……三葉さん、……君は…誰だッ……?!!」

……これより映画タイトル……

     デヘッ、与太郎ッス。プロローグ、終わりでヤンス。