「今度バカリは、ダメかも知れない……….。」
柄にも無く、与太郎が悲観して、犬が尾を下げるように、首をウナダレ、
沈んでユク……….。
……….暗くドンヨリした空気が漂い始めた……….。
と、その時、全てを吹き払う、澄んだ一声が、お白州に響いた!
「待っターッ!!」
吟味の関係人の出入り口から、スッと現れた町衆。
伏して両の手を付き、土下座のまま動かない。
姿形こそ、ひれ伏してはイテモ、
江戸前の気っ風と矜持が、羽織り袴をまとって、そこに居た。
シッポを下げかけていた与太郎が、スグに気づいた!
「アッ!親方!! 」
与太郎のシッポが、クルリとハネ上がる。
その言葉と同時に、男は微かに顔を上げ、与太郎にチラリと微笑みを返した。
そして、ヨドミの無い口上。
「アッシは、神田OO町に住まいヤス、大工棟梁の政五郎と申しヤス。
本日、ただ今より、このお白州に参戦致しヤス。
この通り、大岡様からの参戦許可証も、頂いて参りヤシタ。
そしてコチラは、全日本大工連盟の、棟梁許認可証でゴザイヤス。
宜しく御改め下さいヤシ。」
用意の書状を側役人に渡そうとする政五郎。
スルト奉行がそれをさえぎって、
(奉行)「オーッ!その方が政五郎か!待ちかねたゾ!参戦などと物騒な事は申
スナ。書類などはアトでイイから、早くコッチ来なさい!与太君の隣り、空い
てるデショ!」
言われるママに、政五郎は与太郎の隣りに座る。横の与太郎をチラリと見て、
「もう大丈夫」と言うように、再びカスカに微笑む。
(与太郎)「親方、アリガトウ……。」
(奉行)「イヤーッ、政五郎ョ!ソチは知らんでアロウが、その与太郎目に奉行
は、ボッコボゴじゃー!つい苦し紛れに、吟味案件以外の、本来はスルーのハ
ズの事案を持ち出スという禁じ手を出してたトコジャョ!
ココで、オヌシまで、与太君に味方されると、奉行は完敗必至ジャ!
そこで、チト相談ジャガ、奉行の味方に廻ってクレマイカノー?」
(政五郎)「チョ、チョット待って下セーナ。お奉行様、このお白州は
「大工調べ」ジャネェーんデスカイ?
アッシはてっきり大岡様から遠山様に、吟味役が繰り上がったとバカリ
思ってオリヤシタが……….。」
(奉行)「チャウチャウ!「大工調べ」は、キレ者の大岡君が、この後
キッチリ、スッキリやるでしょうョ。
ココはネ、「君の名は」のヒーロー、滝クーンの吟味中ナンデスョ。
シカシのー。与太君は大したモンダヨ!奉行も、この映画ニャー、
恒例の潜入捜査もしてきたケド、与太君が一枚上だよ。
ヨーク調べてるネェー!
政五郎ョ、与太君とこの映画の関わりについて、奉行に教えては
クレマイカ?」
(政五郎)「ソーでしたカイ。与太が因業大家に、道具箱カタに取られて、
ブラブラ……
アッ、ソコは、ご存知なんでヤスネ。で、アッシが映画でも見といでッテ、
昼前に与太に木戸銭渡しタンでヤンしたが、この野郎が戻って来やガッタのが
日暮れ時で、今日はコレで仕事上がろうって時分でサァ。
それも、コイツにゃ珍しく仏頂面下げて来やガッタもんデスから、アッシが、
「オーッ!映画どうだったい?」ッテ水向けると、
「親方、とってもオカシかった。」て答えやがんデサァー。
「面白くって良かったジャネェーカ!」て言いやすとネ、今度は、
「ソーじゃネェーや!とっても筋ツマが合わなカッタ。」って
ヌカシやがったンデスヨ。」
(奉行)「 (ドコカで聞いたような展開ジャナ?) 」
(政五郎)「以下、掛け合いで参りヤス。」
(政)「与太郎ョゥ、気ィ悪くシチャ勘弁ナ。オメェの頭ジャ人様が
1で判る事ァ、オメェは6も7もカケネェーと、イケネェーんだせ゛。
それでも判んなカッタラ、アッシのトコに聞きに来ナッ!テ、
いつも言ってるダローョ。」
(与太)「ソーじゃネェーや!アタイ、今日「君の名は」と「ゴジラ」両方、
見て来たケド、「ゴジラ」は、アタイのオツムじゃ難しくて良く判んネェー所
が、イッパイ有った。これは、後で親方に教えて貰おうッテ思ったョ。
だけどネ、「君の名」の方は、随分と筋ツマが合ってネェーや!!
あんまり筋が合ってネェーから、アタイ、途中で寝たのカナ?と思って、
もうイッペン見たケド、ちゃんと起きて見てタンだ、筋の方がオカシイん
だって判った時点で、アタイは安心して寝チャイましたョ。」
(政)「何デェー、3本立かよ!道理で日も暮れチマワァー。ケド、木戸銭、
そんなに渡しチャイネェーダロ?足りたのカイ?」
(与太)「親方ァー知らネェーダローケド、最近は「シネコン」てのが
流行っテテ……」
(政)「シネコンぐれぇ知ってらぁ。けどよー、アリャ入れ替えとかウルセーん
じゃネーノカイ?お前!まさかズルしたんジャネェーダローナ?!」
(与太)「アタイはオツムは悪いケド、悪さはシネェーや!
親方ァー知らネェーダローケド、今度「重宝シネマ」ッテのが出来て、
アタイは重宝してんデェー。」
(政)「何デェー、その「重宝シネマ」ッテーのは?」
(与太)「アノネ!「重宝シネマ」ッテのはネ、二回目から半額で、オマケに
見放題ナノ!だけどネ、見放題でも予約が優先だから、大当たりで満席
なんかダト、見られネェー。で、大当たりの作品でも安心して見たケリャ、
又、半額払えば、座席がチャンと指定出来ラァー。デモネ、並みの映画なら、
空いてる席にチョコッと座って見てる分ニャ、3本目からは、タダ見ナノ!
映画館にしてミリャ賑やかに成るし、ドリンクは売れるしで、悪かネェー
見テェーだよ。上手く出来てやがんの!親方、知らネェーでショー。」
(政)「知らネェーョ!そうかい。それで3本立てカヨ!ナルほどネ。」
って、お奉行様、そこでアッシが話しを止めとキャ良かったンですが、
アッシも懲りネェー性分で、ツイこう聞いチマッタんでサァー。
「で、与太ヨゥ、どこがソンナニ、筋ツマが合ってナカッタんデェー?」
ッテネ。これが、間違いの始まりデサァー。
それからッテート、この野郎、シャベルはシャベルは、口から泡飛ばし
ヤガッテ、アッシに向かって来やがるカラ、コチトラ仕事の片付けも
出来ネェーんで、こう言ったんでサァー。
(政)「オーッ与太ョ、ワカッタから続きは明日にして、今日はココラで
帰ンナ。おっ母さんが心配してんソ゛。」
(与太)「アッ、ソウダ!アタイ帰ラァー。」
ってんで、翌朝、仕事場……今、番町のお屋敷やってんデスけどネ、
その屋敷の松が向こうに見えたカナ、と思いヤスと、誰かが手を振って
アッシを待ってヤガンデサァー。
近づくと、コレが与太なんで。イャーな予感がしたんでサァー。」
(与太)「親方!昨日の続きダッ!約束ダッ!」
ってんで、この野郎、半時近くも、ココがオカシイ、アソコもオカシイ、
親方ドーダ?ってアーダコーダ言いヤガッテ。
何しろ、アッシの見てネェー映画の事デスんで、サッパリ判らネェー。
仕事ニャなんネェー。金魚の糞ミテェーに付きまとって離れネェー。
その内、職人達が陰でクスクスし始めヤガッテ、ショーがネェーから
(政)「オイ、与太ッ!そんなにオカシかったら、3ベンでも4ヘンでも
イイから、今から「重宝シネマ」行ってその映画見て、もう一度
確かめて来い!
寝チマッたら起きてマタ見りゃイージャネェーか!ドーセ見放題ダローョ?
ホレ、木戸銭ダッ。余ったらドリンクでも買いナ!」
(与太)「サスガァー親方ダ!アタイ、行ってくらぁ。」
ってんで,この野郎、木戸銭掴んでワァーッてんで走ってって、
今日はソのまま家に帰るダローと油断してたら、又、日暮れに、
ハァハァしながら走って戻って来ヤガッたんでサァー。
(政)「オー、与太ッ!落ち着け!オイッ誰か水持って来てヤレ!デ、
今日は何ベン見た?」
(与太)「1ぺん見て、2へん目は寝て、3ぺん見て、4へん目は
半分寝てタ。アタイ、結構、クタビレタ。」
(政)「そりゃ、走って来たからダョ!オメェーも懲りネェーなぁ。
よく眼が疲れネェーな!」
(与太)「デモネ、オカシな所はヤッパシ、オカシイヤ!アタイの頭も
チートは悪いケド、オカシクは無かったッテ、おかげ様でヨク判り
マシタ。」
(政)「そりゃ、良かったジャネェーカイ。コチトラも仕事、
もう上がるから、オメェーも、今日はコレで帰ンナ!
おっ母さん、心配してンゾ。」
(与太)「アッ、そうダッ!アタイ帰らぁ。皆さん、お疲れ目様ジャネェ、
お疲れ様デシタ。ジャ、親方!又、明日!!。」
ってんで、与太の野郎、帰ったんデスけど、「又、明日!!」デサァ!
今度はドーヤッテしのごうか。アリャオカシイ、コリャオカシイで、
今日、半時 ( はんとき約1時間 ) ダッタから、明日は一時 ( いっとき
約2時間 ) ジャとても済まネェー。 エーイッ!ドーとでも成りヤガレ!
ってんで、覚悟を決めタンでサァ。」
(奉行)「コレ、コレ!チョット待って下さいヨ?!話が変デスョ?!
政五郎ョ、オヌシは知らんダローが、奉行はこの映画に、「ソレは
ネェーダローョ!」との判決を出したんデスョ!ところが、与太君は、
アー言えばコー言うでことごとく反論しまくって、奉行の方が与太与太、
いやヨタヨタなのジャョ。つまり、与太君は、この映画の、予想外の
ボランティア弁護人ダョ!!
ところが、オヌシの話では、その与太君こそが、「ソレはネェーダローョ!」
の旗百本振り回してる、鬼検事って事だよネ!ドーナッテルノ?!」
(政五郎)「アッ!そりゃキット、こうナンデやすョ。翌朝、与太の野郎が、
ヤッパシ番町のお屋敷で、アッシを待ち伏せしてイヤガッタんで、
こう言ったんでサァー。」
(政)「与太ョ、オメェーの心持ちは良ーく判るョ。ナァーッ、筋が通ら
ネェー、筋ツマが合わネェーって所が、手足の指でも足りネェーってん
ダロー?それじゃー、こうしたらドーデーッ。オメェーの好きにシテミナ。」
(与太)「……好きにするって………何デェ?……。」
(政五郎)「オメェーも、映画が嫌いなコタァ、ネェーんダローが。
だったら オメェーが、コレだったら真っ当で、一本筋が通ってラァーと
納得出来る筋書きを、考えちゃドーデェー。
ドーセ、お白州までには、まだ日数がアラァ。毎日、「重宝シネマ」
って訳にもイカネェーから、与太、テメェーが筋書きを好きに書いて
見たらドーデェー、って事ヤナ。」
(与太)「………… 」
(政五郎)「但し、コイツを忘れちゃ、イケネェーゼ。
世の中に「角に曲がった柱」なんざ、アリャしねぇーダロー。
ケドョ、二本の柱の片方にホゾ穴くり抜いて、片方にホゾこさえて、
ソイツを合わせて、クサビを打ち込みゃ、立派な、ビクともしねぇ
「角に曲がった柱」に成るダローガョ。だから与太郎ョー、オメェーが
オカシィヤ!と思った事でも、よーく見りゃ、オカシクも何ともネェー、
上手くコサエられてる事も有ルンダ、って事を忘れちゃイケネェーって
事サナ!それでも判んネェー事が有ったら、オイラんトコ、いつでも来ナ!」
スルッテェーと、与太の野郎、急にシレっとして、こう言ったんでサァー。
(与太)「………. 親方 ……….。それは「君の名は」真っ当化プランと云う事デス
カイ?」
(政五郎)「マットウでも、四等でも構わネェーが、早い話、与太版のアナザー
バージョンってコッタな。」
(与太)「……….名前はトモカク、これは時間との闘いにナリマスな……….!!
親方、アタイは今日はコレにて、お面をカブリます、じゃネェーや、何だっけ?
アッ!ご免コウムリますダッ!」
ってんで、野郎、サァーって走って帰ったんデサァー。
デ、その日は勿論、仕事場ニャ戻らネェー。
翌日も与太の野郎、顔出さネェーんでホッとしましたらネ、
翌々日も、出てコネェーんデスョ。スルッテェーと、職人達の中ニャ、
「親方、与太公、顔出しマセンネ。」とか、
「与太の野郎、大丈夫ですカイ?」とか、お節介、出しやがんデスヨ。
さすがに、ソン次の日ニャ、アッシも心配になって、与太の野郎ん家を覗きに
行くと、入り口の木戸に、キッタネェーひらがなで、「めんかいしゃぜつ!」
の貼り紙が目に飛び込んだ!
てっきり、おっ母さんでも大病かと思って、
「オーッ!政五郎デェー!入るゾーッ!」ってんで、急いで木戸開けると、
与太の野郎、部屋の中で、机の前にチョコンと座ってヤガンデスヨ。
「おっ母、どうしたっ!!」ッテ聞くと
「今、紙と鉛筆、買いに行った。」テカラ、手延ばして与太の頭、ヒッパ
タイテ、「テメェーが買い行きヤガレ!このバカヤローッ!!」ッテート、
「アタイも、そう言ったんだケド、おっ母が自分が買って来てやるカラって
言うから、本人のたっての希望を、かなえて差し上げマシタ。」テカラ、
もうイッペン、野郎の頭をヒッパタイテ、
「何してヤガンダ、コノヤローッ!」ッテ聞きヤスト、こう答えたんデ。
「アタイは、ただ今、……オカエリなさい、じゃネェーや、
ただ今「君の名は」真っ当化プランの作戦の実戦配備中でゴザンス。」
アーッ、そうか!アッシが3日前に与太に「好きにシテミロ!」って言った
事を、野郎チャントやってヤガッタンダ!って、気付キヤシタ。
よーく見るッテート、机の脇に、結構な厚めに紙が重ねてあるんでヤンスョ。
作戦原稿だテンデスヨ。
「その真っ当化プランてのは、大部出来たのカイ?」
「そんなに早くは出来ネェーヤイ!ケド、肝心な所は出来テラァー。
プロローグと、エピローグ、始めと終わり、アルファーにしてオメガ……….」
って、又、生意気な事ホザキやがるんで、もう一度、頭ヒッパタイテ、
本人いやがるのをヒッタクルようにして、作戦原稿を取り上げて見ますトネ、
ヒデェーもんだ、コレが!! キッタネェーひらがなバッカリで、とても他人様
に出せる物じゃネェー。
ところが、お奉行様、一言一言たどりながら、苦労して読んでミヤスと、
コレが意外に結構なもんでヤンスョ。
デネ、アッシのカカァ、読み書きが一丁前なもんで、コイツに清書させる事に
決めヤシタ。
「オーッ、与太、コレ借りてくゼ。カカァに清書させて、出来次第、持って来
てヤラー。続きは又、取りに来ラァー。コレは紙代の足しダョ。おっ母さんに
ヨロシクなっ!」
ってんで、家に帰って、アッシのカカァに頼むと、最初はアーダコーダ言って、
渋ってたんスケト゛「アノ与太公が書いたんダカラ。」ってーと、
「そんじゃ、ショーがナイヤネ。」って引き受けたんデサァ。
ホッとして、アッシが煙草しばらくクユラしてマスと、カカァの野郎、戻って
来ましてネ、こう言ったんでサァー。
「アンタ、コレ、本当にアノ与太が書いたのカイ?」
「そんなキッタネェーひらがな、誰が書くんデェー!」ッタラ
「ソリャそーだねー。フーン。アノ与太がネェー……….。」ッテンデ
仕上げたのが、今、アッシの懐の中にアリヤス。
(奉行)「ホーッ!そういう事か!ナルホド……..。与太君なりに、角に曲がった
柱の謎を解いた、という事ジャナ………!」
(政五郎)「で、お奉行様、このお白州ジャ「君の名は」の「ソレはネェー
ダローョ!」を吟味中との事ですが、ご無礼を百も承知で申し上げヤスが、
コウしちゃ頂けネェーでショーカ?」
(側役人)「コレ!政五郎!控えぃ!」
(奉行)「カマァーネェーョ。政君、何ーンでも言ってチョーダイナ。」
(政五郎)「有り難うゴザイヤス。お言葉に甘えヤス。アッシも「ソレはネェー
ダローョ!」に付いチャー、コノ与太から、耳鳴りスル程攻撃されましたン
デ、痛ェー程解りヤス。
只、コレを一々取り上げていたら、夜が明けチマウ所か、ウン気の時分ニャ、
物は腐っチマイマサァー。そこで、どうでガンショーネェー、「ソレはネェー
ダローョ!」を、あげつらうんジャなくて、「コレならソーダローョ!」って
のを、ハナっからシマイ迄、ズラリと並べて見チャ、どーですカイ?
たまたま、アッシがこの与太に、「好きにしてミロ!」ってタのを、この野郎
が何とかマトモに仕上げた物も、ココに有りヤスンデ、コイツをタタキ台に
して、一丁、お考え頂けマスと有り難ェーと、考えてオリヤス。」
(奉行)「政君ョ。オヌシは知らんダローが、この奉行も、「コレならソーダ
ローョ!」ってのを、既に一部分やって見たのジャヨ。
ところが、これも与太君にボッコボコにされチマッテネェー。
全部とナルトだよねー、ボッコボコのボッコボコのボッコボコ……。」
(政五郎)「イヤイヤ、違うんデサァー。お奉行様お一人でって事ジャー有り
ヤセン。与太の野郎でさえ、コノくれぇの事はヤレたんでサァー。
世の中、頭の切れる奴ァ、ゴマンとイマサァー。で、このお奉行所で、
まとめて頂けりゃー宜しいんジャネェーかと思いヤスンデ。」
(奉行)「政君の言う事も、もっともジャヨ。だけどネェ……。」
(側役人)「お奉行様、よろしいでショーか。」
(奉行)「エッ?何ッ?側役人のOOチャン!珍しい!何か言いたい事アルノ?
遠慮……してナイネ……。何でもドーゾ。」
(側役人)「お奉行様も、ココいらで、お好きに為されては、如何ですか?」
(奉行)「アリャマ!ヨクゾ申しタ、側役人殿。持つべき物は側役人。有り難い
ネェー。一本、筋の通った王道の台本を、実物丸ごと目の前にゴロリと転がし
て見せる、って事か。
ヨーッシャ!オイラも、好きにシチャウゼ!」
(デ、ハンコはドコに押すの?エッ?ハンコ要りません?本当?映画が違イマス?
アーッ、ソーダネ。OK,OK。)
(奉行)「で、政君、例の真っ当化プランは、どこまで完成してるの?」
(政五郎)「ハイ、それが、まだ2,3分て所でショーか。」
(奉行)「何ッ!そういう事か。それで衆知を集めヨーッて訳カイ。ソリャ、
かえって都合が良い。と言うのはネェー、ホラ、オイラもこの映画に潜入捜査
してるデショー。その時、個人的に引っかカッテル事が2つバカリ有って
ネェー。ソレ、ついでッチャー何だけど、何とかしてモラエネェーかなッテ訳
ョ。」
(政五郎)「アッシなんざ、この映画、見てネェーんでヤンスけど、判るヨーな
気ィシヤス。で、何スか?その2つテーのは?」
(奉行)「1つは、入れ替わりの記憶ジャ!この映画だと互いに入れ替ってる時
の記憶が曖昧デショー!目が醒めた時は覚えていても、夢みたいに段々
ボヤケル、ってケド、その割ニャー、キッチリ覚えてタリ、全て忘れてタリ、
イーカゲンだよね。
オイラ、細かい事が気になるタチでネ。1つ、スッキリ、サッパリ入れ替り時
の記憶は、互いに、お持ち帰り出来ない事にしてはモラエネーかな。」
(政五郎)「そりゃー、心配ご無用デサァー、お奉行様。この与太、その事ァー
サンザ言ってヤシテ、アッシの耳ニャ、タコの足8本どころかムカデの足
100本位に成ってマサァー。」
(奉行)「オーッ、そうか!ムカデか!刺されんヨーにナ!腫れると痛ェゾー。
デ、2つ目は、「結び」ジャ。一葉のバッチヤン、やたら結びマクっている
ダロゥ。オイラにゃーアレがチョイと気に障るんダョ。
何とかナランかのー。」
(政五郎)「お奉行様は、アッシと与太との掛け合いに立ち会ってイラシたん
デスカイ?コレ又、心配ご無用どころか、この与太の野郎、「結び」の事ジャ
四半時もギャーギャー言ってましたンデ。こんな具合でサァー。
[与太]「人も神も「結び」だって言ってんダケド、親方、オカシクねぇーか?」
[政五郎]「そりゃ、オメェー、「縁結びの神」ってーカラ、オカシクねぇー
ダローョ。」
[与太]「それジャ親方、その神様のお供えに、オニギリあげる時、ヤッパし
三角ムスビは、ダメですカイ?」
[政五郎]「何デェー、ソレは?」
[与太]「円ムスビの神様じゃネェーんスカ?三角はダメで丸い円ムスビ。」
[政五郎]「何がムスビだ、バカヤロー!!「縁」違いダョ!!」
[与太]「「円」違い?ジャお金の「円」ダッ!いくらのカナ?コンビニの
100円ムスビじゃダメですカイ?やっぱし、デパ地下の200円グレェーの高級
品……。」
[政五郎]「いい加減にシネェーと、ハッタオスぞ、コノ、バカヤローッ!!」
てな具合で、コチトラ仕事ニャ成らんは、職人達は陰でクスクスし始めるはで
シャーネェーから、コノ野郎を重宝シネマに放り込んだって訳でサァー。
ケドネ、結構、真っ当な事も言ってヤスンデ、今からコノ野郎に、直に言わせ
マスんで、チョッと、お待ちを。」
(政五郎)「オイ、与太!お奉行様に「結び」の一件、申し上げるンダ!
但し、7つも8つもジャ、ダメだゼ!短くまとめて、1つ2つに、しときナ。
わかったカイ?」
(与太郎)「アッ、アイ。それジャーお奉行様、短くまとめて、
2つにシトカァー。(短く出来るカナ?チョット無理カモネ……)」
(与太郎)「1つ目は、「解(ホド)き」の事。結んでバッカじゃ、ダメでぇー。
アタイは、ノコギリだってノミだってカンナだって、毎日、ちゃんと手入れ
シテルよ。チョットでも油断すると、サビちまワァー。
これ、親方から教わったんダケド、空気の中ニャ、失敗の素ってのが有って、
何をやっても失敗……って、アレッ?チョット違うナ?……アッ!
スッパイの素ダ!酸っぱいの素ってのが有って、コイツが鋼の鉄とヒッツキ
やがると、赤い粉ふいてサビちまワァー。
一葉のバッチャンに言わせりゃ、これも「結び」ダョ。
ケド、「結び」っ放しダト大変ダョ。ノコは、サビちまう。
アタイら大工は、オマンマの食い上げで、干物になっチマワァー。
大工の干物なんざ、犬も喰わネェーや。
喰うカナ?ヤッテミョ。ハイ、オアズケ!オヤッ?….ヨダレだ。喰う気ダョ。
コレ、「親方の干物」ダョ。腹コワスとコワイよ。止めといた方が……って、
何の話でしダッケ?……アッ!ノコのサビの話ダッ!
デネ、アタイは毎日、チャンとノコの手入れをスルんです。
だけどネ、サビを、引っ剥がすンじゃネェーや。
「今日も、ご苦労さんデシタ。頑張ったネ。有り難うネ。」ってんで、
サビをほどいてヤルんデェー。「解(ほど)き」ダョ。
スルッテェーと、ノコもネ、触った物ァ何でも切っチマウような、
野暮なノコには、成らネェー。切る物ダケがスーッと切れる、優しいノコに
成らァ!不思議と、怪我しネェーんデェー。
デネ、一葉のバッチャンは、お奉行様の言う通り、やたら「結び」まくってた
ケド、「結び」ってのは、良い事バッカじゃネェーや。
「解き」を忘れチャ、いけネェーや。
相撲で言えば、「結び」が「東の横綱」なら、「解き」は「西の横綱」ダョ。
ダケド一葉のバッチャンのセリフじゃ、「解き」は「十両」扱いダョ。
そりゃネェーやい!!「解き」は強ェーンデェー!!
一葉のバッチャンだって、かわいそうデェー。
シナリオ通りに、読んでるダケだもんネェー。
一葉のバッチャンに、責任は有りヤセン。アタイは悲しくナッチマウョ。
こうした台本上の問題の責任は、一義的には、脚本家、原作者、あるいは監督
又は、その全ての者に帰すべきであり、違反した者には、1000万円以下の
罰金、あるいは、10年以下の懲役、又はその両方が課せられ……」
(側役人)「コレ!与太郎!二度目!! シャンとせい!」
(与太郎)「アッ、アイ。じゃ次行くネ。
デネ、2番目が「時間」と「結び」の事。
一葉のバッチャンが、「時の流れ」を「結び」って言ってタケド、コリャ、
ちゃんちゃらオカシーヤイ!
「時の流れ」ってのは、アタイにはムズカシ過ぎるんダケド、
コレだけは、判らァー。
「結び」バッカじゃ、「時」は「流れ」ネェーやい!
「結ンデ」、「開いて」、ジャナイや
「結んで」、「解イテ」、「時」は「流れ」るんデェー!
「コレ迄」が有って、「今」が有って、「コレから」が有る。
「過去」と、「今」と、「未来」。
チョット、隙間が、有る。
横に並べると、….「過去」「過去」「過去」、「今」、「未来」「未来」「未
来」……
チョィト、クタビレますョ。
ココでね、「過去」と「今」、「今」と「未来」、は仲良しで、引っ張り合い
ダョ。 チョット油断すると、すぐヒッツいチャウ。
「好きダョッ!」、「アタイもッ!」、「キャーッ!」、なんちゃってネッ。
ダケドね、「過去」と「過去」、「未来」と「未来」、同じどうし、(「今」
と「今」も)は、仲悪くて、反発ダネ。
「アッチ行けっ!シッ!!」、「オメェーこそ、アッチ行けっ!シッ!!」、
喧嘩ダネ。犬と猿ダョ。ウン?……犬と猿ッテーと、桃太郎のお供ダネ!
よく喧嘩に成らナカッタね。実は、犬が、キビダンゴ100個と骨1ヶ月分で
裏切ッタとかネ。
デ、猿が桃太郎に、「大変デス。犬の野郎が、ヤッパリ裏切りヤシターッ!」
ッテーと、実は、桃太郎が1000両箱10個、(それも箱ダケ、中身ナシ!イャダ
ネェー!)で、最初に裏切ってターッ……….って、何の話でしダッケ?
アッ!「過去」と「今」と「未来」の話ダッ!
デネ、「今」が「未来」に、ヒッツクと、「未来」は「今」に、変わる。
又ネ、「過去」が「今」にヒッツクと、「今」は「過去」に、変わる。
「仲良し」と「反発」。コレって、磁石ミテェーだね。
同じ極だと「反発」して、違う極だと「ヒッツク」のと一緒だね。
磁石はスゴいョ!口で「アッチ行け!」なんてもんジャないョ。
絶対にヒッツカない。ムチ出して、互いにピシッピシッ!
SとS、MとM、ウン?チョット違うナ?
アッ!お隣さんダッ!SとMジャなくて、SとNダッ!
ェーと、何の話でしタッケ?
アッ、「過去」と「今」と「未来」の話ダッ!
全然、進んでネェーや。
デネ、「未来」が「今」とヒッツクと、「未来」の方は「今」に変わっチマウ
、すると、「今」「今」に成るから、喧嘩ダョ。結婚、即、離婚、ダネ。
ソンで、「今」は頭きて、元の、自分の場所に戻ると、「過去」が迫ってイテ、
「好きダョッ!」「アタイもッ!」「キャーッ!」で、「今」と「過去」が
ヒッツク、「今」が「過去」に変わっチマウ。デ「過去」「過去」に成るから、
即、喧嘩ダ。デ、「元今」の「過去」が自分の場所に戻ろうと、向こうを見る
と、大変ダ!
「元未来」の「今」の野郎が、その先の「未来」の野郎とヒッツイテ、そいつ
が、「今」に変わって、即、喧嘩デ、コッチに戻って来やがるンダ。
ってーと、「元今」の「過去」は、「元未来」の「今」と懲りずに、「好きダ
ョ!」「アタイも!」「キャーッ!」でスグにヒッツク。
すると、「元未来」の「今」は「過去」に変わる、と、即、喧嘩ダョ。
結構、クタビレるデショー。
こうして、「未来」が「今」と成って、「今」が「過去」と成って、
「時間」は、流れテク。
デネ、ヒッツクのが「結び」、離れるのが「解き」ダネ。
ここで、問題はネ、「隙間」のことダョ。
「今」が「未来」とヒッツク迄にカカル時間は、どん位カナ?
ンデもって、「今」「今」に成って、喧嘩して、帰って来て、「過去」と
ヒッツクのに、カカル時間は、どん位カナ?
てな事、考えると、難しいケド、面白くって、夜も寝られなくナッチまうハズ
なんスけど、五つも数えネェー内に、アタイはスヤスヤですョ。
良ーく、眠れるョ。デネ、アタイが寝チマウと、交代で起き出して、夜っぴき
徹夜で、難問に頭をひねってる、影のアタイが、居たりシテネ。ご苦労さまデ
ス…….って、何の話でしダッケ?
アッ!「今」と「未来」がヒッ付いて、離れるのにカカル時間の話ダッ!
アタイ、親方に、割り算と分数を習った時、コリャ面白ェー、と思った話が
アル。多分、アレだ!と思うョ。
1を3で割るデショ?テェーと、答えは2つアルね。変デショ。
3分の1、と、0.333333333333……..アーッ、クタビレタ。(算術はヤダネ!
アタイは、瞬間でクタビレます!マラソンで言ゃー、ゴールインしてクタクタ
なら、ごもっともデスョ。アタイの場合は、ヨーイドン、ハイ、スタートの
直後に、クタビレます。イヤだネェー。でもネ、中ニャー、スッゴく面白ェの
もアル! 次のが、ソレ!)
デネ、親方が、「与太、2つの答えを3倍してミナ!こう成るダロ。
3分の1掛ける3、で、1。もう一つは、0.333333333……掛ける3で、
0.999999999……。
で、0.000000000…….1、足り無くナッチマウ。この差の分はドコに行っチ
マッタのカイ? 与太ョ、サァどうする?」
デ、アタイが、「親方、それジャ番所に、行方知れずの届け、出して来ヤス
か?」ッテーとオコゴトを食べました、ジャネェーや、頂きました。
あんまり、ウマくなかったネェー。塩が足りてネェーのカナ?……ッテ、
何の話でしタッケ?
アッ、そうだ、ゼロに近い0.00000000……….1がドコ行った?の話ダ!
「親方、手品みテェーなズルしちゃ、イケマセンゼ!きっとズルでしょ?」
って、アタイが 確かめたら、親方、種明かし、してくれたヨ。
コウでした。
1を3で割ると、「0.33333333333……….」は、間違いなんだって!
「0.33333333333……….と、オツリじゃネェーや、余りが0.00000000………1」
が、本当デス。余りを忘れチャ、イケマセン。迷子になっチャウヨ。
だから、コレを3倍すると、「0.999999999……….」は、間違いデシタ。
「0.333333333……….と、余り0.00000000………..1」の3倍、つまり
「0.999999999……….と、余り0.00000000………..3」が正解デス。
ここデネ、余り0.0000000……….3、は3で割り切れるヨネ。
するっテェーと、「余り」は「答え」に、出世できるンダッテ。
「余り0.0000000……….3」は「答え0.0000000……….1」に出世して、
「0.999999999………+答え0.00000000……….1」=「1.000000000……….」
=「1」に、ヤッパシ成るンデェー。
「何ーンダ。ヤッパシ、隠れんぼシテ、ズルしてヤガンの!」って、アタイが
言ったら、親方がネ、「ソーじゃネェーょ。与太ョ。物事ァ、ヨーク注意して
見とかネェーと、アッサリ本当の姿を、見失なっチマウって事ダヨ。
0.00000……….1 は、隠したんジャネェーぞ。見てる方が、忘れてんだ。
親がチャンと見てりゃ、迷子にゃならネェーんダヨ。」
「ソウデスカイ。親方、アタイが油断したバッカリに、アタイの子供と嫁さん
は、迷子にナッチマッテるんデスカイ。でもね、アタイは油断した覚えは
ネェー。第一、嫁さんもらった覚えもネェー。
けど、ヤッパシ番所に、今度は失せ者の届け、出しに行って来やショーか?」
って、アタイが言ったら、親方に頭ヒッパタかれマシタ。
痛かったネェー。ッテ、何の話デシタっけ?
アッ、0.00000……….1を、忘れチャいけネェーって話ダ!
デネ、話がアチコチ飛びまくりヤシタが、「過去」と「今」と「未来」の間の
時間の差はネ、この0.00000……….1、ジャネェーかと、アタイは思いヤシタ。
「結び」に、0.00000……….1、「解き」に、0.00000……….1、限り無くゼロに
近い「瞬間」で、時間は「過去」から「未来」に、流れて行くんダロナァー
と……….。
(但し、コレは、何のカニ、じゃネェー、エビデンスを伴っチャー、オリや
セン。アタイの、文字通りの、与太話デスョ。
だけどネ、この前、親方にこの話をした時、
「お前、本当に与太か?」ッテから、「アタイは、チョット足りない事にかけ
チャープロでェー。」って、エバったら、親方に頭ヒッパタかれマシタョ。)
ここデネ、0.00000………..1に付いチャ、もう一つ、面白い話がアルョ。。
これ、親方に聞いた時、アタイ、びっくりシチャッタ。
ノロノロ亀と駆けっこして、絶対に追い付く事が出来ネェー、アキレタ兄ちゃ
ん、(ゥン?チョット、違うカナ?まっ、イイや。)の話デス。
デネ、アキレタ兄ちゃんは、楽勝で100mを10秒、亀さん、必死で1mが10秒。
ハンデ100m付けて、よーいドン!
アタイは、アキレタ兄ちゃんの楽勝、と思ったら、親方がロクデナシ言いヤガ
のンノ。
「与太ョ、アキレス(アッ!アキレタじゃネェーや、アキレスの兄ちゃん
デシタ。)が亀のスタート地点に着いた時、亀は1m先に進んデル。
で、アキレスが1m先に着くと、亀は、0.01m先に進んデル。
で、アキレスが0.01m先に着くと、亀は0.0001m先に進んデル。
で、アキレスが0.0001m先に着くと、亀は0.000001m先に進んデル。
コレが、ずーっと続く。
だから、アキレスは、亀に、永遠に絶対に追い付けネェー。
サア、どーする、与太?。」
コレって、0.00000……….1の話ダヨネ。
「親方、又、手品ミテェーなズルしてんでショー。ズルしちゃイケマセンぜ。」
って、アタイが言ったら、種明かしをしてクレマシタョ。
「永遠に、追い付けネェーのは、時間を細切れにしている回数、の事で、
時間の流れの量としての、永遠じゃネェーんだょ。
(細切れ作業を)いつまでヤッテも追い付けネェーんで、いつまでタッテも
追い付けネェー事にはならネェーんだょ。
時間の量じゃ0.00000……….1秒の話になるんダヨ。
これジャ、時間が止まっチマウ。だけど、時間は止めようがネェーんダ。
オイラ達が、ドッカで、時間の測り方、捕まえ方を間違えテルに違いネェーん
ダヨ。」
「ヤッパシ、親方、ズルしてヤガンノ。だけどネ、アタイが亀さんと駆けっこ
したら、アキレタじゃネェーや、アキレスの兄ちゃんミテェーに、ドジは踏ま
ネェーやぃ。」って言ったら、親方が口トンガラかして
「じゃ、与太、どーするンデェー。」ってカラ、今度は、アタイの方が、
種明かしをシタョ。
駆けっこは、二度シマス。
一度目。アキレスの兄ちゃんと同じで、ハンデ100mで、よーいドン!
デネ、アタイが亀さんのスタート地点に着いた時の、亀さんの位置を測る。
アタイは、アキレスの兄ちゃんヨリ、ずーっと遅いカラ、亀さんは1mより、
ずーっと向こうに着いてるヨネ。その位置を測る。
そんでネ、亀さんニャー悪いんダケド、亀さんのスタート地点から、逆方向に
同じダケの距離を戻ッテもらう。ココが、新しいスタート地点ダヨ。ハンデは
その分だけ短いヨネ。
ココで、二度目の、よーいドン。
アタイが、亀さんの元のスタート地点に着く迄、アタイは亀さんを追い抜け
ないョ。
ダケド、元のスタート地点に着いた時、亀さんは、アタイより極めてチョット
でも先に出る事はナイヨネ。0.00000……….1秒の分もネ。
100%完全な同着、に成る。
そんでネ、ココは、ゴールじゃネェから、駆けっこは続いてル。
だから、同着した次の瞬間、アタイは0.00000……….1秒の分だけ、亀さんを
追い抜いテル。
ホラね、親方、アタイは亀さんを追い抜きマシタ。
デネ、同着する直前の瞬間の、0.00000……….1秒が「結び」。
同着した直後の、0.00000……….1秒が「解き」にカカル時間じゃネェーかな?
と、アタイは思いヤシタ。
だからネ、一葉のバッチャンの「時間も結び」じゃダメなんデェー!
時間も、「結び」と「解き」の、両横綱で出来てるんジャネェーかな?ッテ
のが、アタイの、ラストの与太話デシタ。
エーッ、ココ迄の与太話で、お判りにナラナイ点、ご不明な点は、ゴザイマス
か……?」
(側役人)「コレっ!与太!三度目ジャ!イイカゲンにセイ!」
(奉行)「ヨイヨイ、不明の点は、宇宙ミテェーに果てしネェーけど、
与太話は、お判りにナリマシタよ。けど政五郎ョー、お前さんも、与太のカウ
ンターを食らってんだネェー。
オイラは、四五発、食らって与太与太、いやヨタヨタだけど、あのパンチは、
どこから出てくるンダイ?」
(政五郎)「そりゃあ、アッシもビックリでサァー。与太の野郎、普段は
文字通りの与太ナンスけど、映画の事となると、話が違うんでサァー。普段、
使ってネェ分だけ、映画の事だと、一気に頭が廻り出すミテェーで。
亀がアキレスにナッチマウんでサァー。」
(奉行)「ホーッ、与太君の変身ベルトは、映画って訳だ!世の中、面白ェ
なぁー。
さて、滝君ヨ。大変、お待たせシチャッて、勘弁ナッ!聞いての通りダ!
『ソリャネェーダローヨ!』の判決は、即『撤収、無罪放免』ジャナッ!
早いデショ。何でもアリっ!
それでサァー、この後、直ぐに御神体の祠に戻るカイ?
それとも、この奉行所で、チョイと遊んで行くカイ?」
(滝)「お奉行様、僕はこの後の、真の切れ者で評判の大岡様の『大工調べ』を
見テキたいデス。この与太朗さんと、政五朗親方が主役でショ?
だったら尚更です。」
(奉行)「オーッ、構わネェーよ。ジャア、そんなゴザに座ってネェーで、
コッチに上がって来ナッ!大丈夫だから。オイラが、大岡君には良く言っとく
カラ。ソコの特等席で、よーく、『大工調べ』を見てってクレタマエ。
オイラと違って、あの野郎、ジャねぇ、大岡君は本当に、頭が切れるゼ!
瓦10枚、一刀両断、電光石火の切れ味ダゼ!(ちなみに、オイラは叩き割る
タイプだな、ウン!) ケドね、心配ご無用。オイラほどジャねぇーが、
偉ぶらネェー人ダゼ、安心シナ!
さて、コレで、滝君の一件は、一件落着、祝着至極と行きテェー所だが、
一つ荷物が残ってラァーッ!
オーッ!政五郎の親方、政君ヨーッ!お主の懐に入ってる、例の与太君の原稿
『君の名は、真っ当化プラン』ダッケか?コピーすっからオイラにチョイと
預からせてクンナ。ナーニ、『大工調べ』の前までニャ返すカラよー。」
(政五郎、言われた通り懐の原稿を側役人に渡し、側役人から原稿が奉行に
渡る。奉行、パラパラと原稿をメクル。)
(奉行)「政君ヨ、お前さん、奥方にはカラッキシだな?」
(与太朗)「お奉行様、今度はヨク切れてラァーッ!ドーして解るの?アノネ、
親方とオカミサンはネェー、スゲェーんダヨ、アノネ、アタイが……」
(政五郎)「与太ッ!余計なオセッカイ出すんじゃネェー!」
(奉行)「マァマァ、政君、クールダウン、クールダウン。
しかし、お主の奥方は、一体何者なんダイ? この奉行所にも、筆の達者は
揃ってるケド、お主の奥方の右に出る者は、まず、大岡君ぐれぇダヨ。
(何しろ、あの野郎、まっイイカッ、文武両道、それもテッペンだぜ。)
政君も色々、ご苦労の御様子、お察し申し上げる。
ソレはソーと、『君の名は、真っ当化プラン』の正式な作戦名は有るのカイ?
エッ?何ッ?まだアリマセン?そりゃイケネェーやぃ!
何事も、作戦名は重要だぜ!
オーッ、与太君、何か希望はネェーかい?」
(与太朗)「ジャアね、『天プラが有って、鰻が有って、刺身が有る作戦』」
(政五郎)「そりゃ、オメェーが食べたい物じゃネェーか!お奉行様、
コンナのは、如何でショーか?『フリードリッヒ ベートホッヘン先生が作曲
された、交響曲第6番へ長調作品68『田園』の内、第5楽章作戦』、
コレは、スッタモンダの嵐の去った後の希望と感謝の……」
(側役人)「長いッ!」
(奉行)「マァマァ、それでは、拙者が決めて遣わそう。
コレは、政五郎の知恵にて、与太朗が心血を注ぎし物、よって、今後
『ヨタマ作戦』と致す。一同、異存は御座らんナッ!
コレにて、一件落着ッ。 フーッ、やっと終わった!お疲れ様デシタ。」
次回、『ヨタマ作戦』の予定…………デス?